9月 9日 (水)遠州流茶道の点法
「中置(なかおき)」
ご機嫌よろしゅうございます。
今日は九月九日、重陽の節句です。
宗家道場では着せ綿が床の間に飾られ
長寿を祝う設えを楽しみながらお稽古が
行われています。
そして少々早めですが今月から中置のお稽古が
始まります。
通常の位置より道具畳の中央に寄せて
風炉を置きます。
当流では、小間・広間どちらでも点法します。
尚この中置には二通りの点法があります。
一つは先月ご紹介した大板の上に小さい風炉・釜を
載せ、盛夏に行います。柄杓を勝手付に置きます。
こちらは四畳半切りでのみ行われるものです。
もう一つは名残の季節に大きな鉄の風炉を織部焼
などの敷瓦に載せて、水指を常とは逆に勝手付に
ニ・三目よせて点法します。
こちらはお客様に火を近く、水を遠くという
考えから生まれたと思われます。
いずれの点法でも、中置の場合には点前座が
狭くなることもあり、合柄杓といって
風炉の柄杓より柄が短いものを用います。
7月 15日 (水)遠州流茶道の点法
「宗実家元好茶箱」
ご機嫌よろしゅうございます。
今日は先週に引き続き茶箱についてご紹介します。
宗実家元が好まれた茶箱「青海茶箱」
青海は、どこまでも広がる大海原に絶えず繰り返される
穏やかな波を青海波と呼ぶことに因み、この茶箱を手にして、いつでも、
どこでも、お茶を一服頂けるように、
「茶の湯を通して心を豊かに」という宗実家元のモットーを表現した銘名です。
正面縁が爪紅になっており、深い緑に紅がよく映えます。
蓋には立礼・天籟と同様、ENSHUの字を
デザインしています。
正面から茶碗・茶筅・茶巾等全ての道具が引き出せる
仕組みになっています。
【告知】
5月 20日(水)遠州流茶道の点法
両名物(りょうめいぶつ)
ご機嫌よろしゅうございます。
濃茶で使用する茶入には名物とよばれる
ものがあります。
丸壺や茄子、文琳等の 名物茶入は盆にのせて飾り
お点法でも盆にのせて使用しますが、
肩衝など背丈のあるものや、大振りのものは
点法の時は盆にのせたままでは不安定なため、
盆にのせずに扱います。
その際は初入りでは、盆にのせた状態で飾っておき、
後入りで濃茶の点法の際に盆から外し点法します。
そして茶碗も名物並の道具を使う場合
行われるのが、この両名物という点法です。
茶碗に使い袱紗を折って入れ、「へだて」とします。
その上に茶入をのせて、この状態で
棚の上に飾り付けお点法を始めます。
この点法は棚に茶碗と茶入を飾りつけるため
小間では台目、広間では棚を使用します。
1月28日 (水) 重茶碗(かさねちゃわん)
ご機嫌よろしゅうございます。
薄茶のお点法が一通りできるようになると
次に稽古するのが「重茶碗」です。
このお点法は遠州流茶道特有のものです。
お茶事の薄茶のとき、数人のお客様に
次々とお茶を点てていくための点法で
同じ種類の茶碗を重ねて使用します。
遠州公が伏見奉行屋敷で行った茶会の時は
薄茶の点法は遠州公の家臣がつとめ、
三島茶碗のような平茶碗を用いて
お客様の人数分重ね、何服も点てていました。
重ね茶碗はその形式を更に洗練したもので、
遠州公の切形(見本)に従って作られた茶碗
で現在もお稽古されています。
薄茶のお点法と異なるのは
茶巾・茶筅の仕組み方が茶碗手前になり、
茶筅は穂先を向こうへ出して根元を茶巾に
つけて入れます。
茶杓も重ねた茶碗の上では不安定なため
表を下に向けて茶碗右に乗せます。
茶碗の扱い方も通常と異なりますので
注意が必要です。
1月 14日(水)遠州流の点法
ご機嫌よろしゅうございます。
当時、遠州好みは綺麗さびとも称されるように
茶道具に限らず、建築や庭園、着物の柄など
その洗練された美しさで、当時の美意識の
お手本ともされていましたが、
遠州公のお点法も綺麗さびの一つです。
松屋会記と呼ばれる茶会記の中で
筆者の松屋久重が遠州公の茶会に
招かれた時の記録が残っています。
久重は炭の置き方、道具の様子などから
遠州公の動きまでを細かく描写しています。
その中で茶巾の扱い方を
成程ニキレイニテ
一ネチメワナノ所アキテ
イカニモダテ也
現代語訳
茶巾のさばき方がなるほどと思わせるように
綺麗で、一ねじふくらませて輪にあけたところ
が、いかにも伊達だった。
この綺麗という感覚は、寛永の時代に共通する
美意識でもあり、当時の公家の日記にも
しばしば「きれい」という言葉がみられます。
伊達という言葉も、当時の流行語で、
仙台伊達家の行列からくる言葉ともされますが、
すっくと目立つ姿、精気あふれる
艶やかな美しさを表現します。
江戸時代後期には
「綺麗キッパは遠江」
と歌われたように
遠州公は、この綺麗を好む寛永文化の美意識の
中心的存在であり、そのお点法も
綺麗さびを感じられる伊達で美しいお点法でした。
現在、遠州流茶道門人が稽古するお点法は
その遠州公の時代から形を大きく変えることなく
伝わっている、伊達で綺麗なお点法なのです。
来週からはその遠州流茶道のお点法を一つづつ
紹介してまいります。
1月 12日 (月)天籟(てんらい)
ご機嫌よろしゅうございます。
平成27年 遠州茶道宗家 稽古照今 点初め
も今日で3日目。
気落ちも新たに、神楽坂に足を運ばれている
ことと思います。
さて、普段通い慣れた門人の皆様、
この宗家道場内にある扁額「天籟」はどこにかけられているか、
覚えていらっしゃいますか?
玄関を入って履物をしまい、
つくばいで手を清めて、クロークにはいると
大きな鏡の上に、この字がかけられています。
鏡の前で身支度を整える皆様の動作を
この「天籟」の二文字が
見守っています。
「荘子」斉物(せいぶつ)論の一説に
こんな話があります。
古代の学者南郭子綦(なんかくし)は机に身を寄せ掛け、
空をあおいで静かに呼吸を整えていくうちに、全身から
その正気が消え失せ、魂の抜け殻のような姿に変わって
いくようにみえました。
弟子の顔成子游(がんせいしゆう)がそれを見て、驚いて
いると、意識の戻った子綦が、
「よく気がついたな。今私は自分を失っていたのだ。
お前は人籟を知っていても、
地籟を聞いた事は無いだろう。
ましてや天籟を聞くことは出来ないだろう」
と話しました。
これについて子遊が問うと
「大地の吐く息、それを風と呼ぶ…」
と風によって奏でられる大自然の響きを説きます。
「地籟は地上の穴が和して発する音楽、
人籟は人が楽器でかなでる音楽。
ならば天籟はどういうものですか」
と子遊に尋ねられた子綦は
「天籟とは、人籟、地籟を超えた宇宙の音楽
で、地球上の万物があるがままに調和している姿。
自他の区別を超えて空(くう)になりきる時
人間は限りない調和の世界に入ることができる」
と説きました。
珠光の唱えた、我慢我執を捨て去った茶の湯の境地
「天籟」とはこれに通ずる姿に他なりません。
ご先代は、この心を持って茶の湯の稽古に臨んでほしいと
いう願いで、この字を書かれました。
鏡にうつる姿を整え、同時に目には見えない心も整えて
道場に入ってもらいたい
そんな願いが込められています。
1月9日 (金)平成27年度 遠州茶道宗家 稽古照今
点初め(たてぞめ)
ご機嫌よろしゅうございます。
いよいよお茶の新年の行事
点初めが始まります。
例年大勢のお客様、門人で賑わうこの点初め
一服の茶と共に、同座する皆様と
その心を通わせる
皆様に新しい年を迎えた喜びを感じていただ
けるよう宗家及び門人一同精一杯のおもてなしで
皆様をお迎えしています。
さて、お家元に点初めに向けて一言頂きました。
「昨年は映画『父は家元』を皮切りに、
茶道テディベアなど、様々な分野との交流を持ち
遠州流茶道の幅を広げてきました。
今年はそれに満足せず、更に新しい事に
挑戦する姿勢を持ちたいと思います。
その心構えを点初めの掛け物で表したいと
思っています。
その一方御題の「本」に基づき、
茶の湯本来の源を探究してゆきたいと思っております。」
点初めにお越しになる皆様
是非お家元のお話に注目して新年初の
お茶をお楽しみ下さい。【
11月 28日 遠州流の茶筅
ご機嫌よろしゅうございます。
一昨日遠州流の柄杓のお話しを致しました。
今日は茶筅のお話しを。
ほとんどのお道具は、季節が変わると、
それに合わせて大振りのもの小ぶりのものに
改めますが、茶筅は大きさを変える必要なく
通年使える茶道具です。
そして他の道具のような華やかさはありませんが
代用のきかない、重要な茶道具です。
煤竹・白竹など茶人や流儀の好みによって、様々な
色合いや穂先の形の茶筅があります。
遠州流の茶筅は白竹を使い、穂先の根元をかがる黒い糸の
結び目を見ると穂の内側で結ばれているのがわかります。
これは大変難しい技術ですが大きな特徴となっています。
ほとんどのお流儀ではこの結び目が表にでているので
遠州流の茶筅との見分け方はここをみれば
すぐわかります。
遠州公を流祖とする大名茶ならではの
手がこんだ茶筅です。
11月 26日 遠州流の柄杓
ご機嫌よろしゅうございます。
炉を開いてそろそろ一ヶ月。
お茶のお稽古をなさる方は、風炉のお点法から
炉の点法にようやくなれた頃でしょうか。
炉の季節になると、釜や水指、色々なものが
風炉に比べてやや大振りになります。
柄杓は・・・
遠州流の柄杓は他のお流儀で使用されているもの
より、大きく、一杯でおよそ5人分の濃茶を
点てることができます。
そしてお茶を練っている途中
その加減をみてお湯を加えるお流儀もありますが
遠州流では、お茶の香りをなるべく損なわない
ようにするため、加え柄杓をしないのです。
9月 14日 心に庵(いおり)を…
ご機嫌よろしゅうございます。
本日は遠州茶道宗家にて、許状授与式が
執り行われます。
受伝者の皆様おめでとございます。
この許状式では、全国から門人が集まり
準師範をはじめ、宗号・庵号を
お家元から直接いただきます。
宗号とは茶道の世界においては茶人としての名前といえるものです。
古へに茶を嗜むものは禅寺で修行を積んだことから由来するものであり、
許状式において御家元から詳しいお話をいただきます。
また庵号はその名の通り、茶室(庵)の名前です。
式中、お家元が受伝者に向けて贈られる
言葉の中に、こんな一節があります。
「庵を持たない方も心に庵を持って
日々の生活を送られて下さい。」
実際に茶室を持つ人も、そうでない人も
常に胸の中に茶の湯の心を意識して日常を過ごす…
それこそが茶の湯の真の修養であり
お家元からいただいた号に恥じない茶人と
なれるのではないかと思います。