芸術・文化・茶の湯と旅と

2023-12-1 UP

 無程年之暮ニ罷成候(ほどなく年の暮れにまかりなり候)。遠州公が歳暮の文にときどき用いる書き出しである。歳暮の文には、忙しさへの嘆きと一年を無事に過ごした安堵感、新年を迎える期待感など、遠州公の人間的部分を想像するのには得難いものである。比較的数も多く残っているので、師走が近づくと年ごとに替えて楽しんでいる。
 今この原稿は十月に書いているから、その辺の近況を……
1日は龍光院開山忌。手伝いに僧堂修行中の長男宗以の姿を見る。帰り際に一言二言かわす。2日歌舞伎座。寺島しのぶさんが、女性として初の出演。「文七元結物語」、これは山田洋次監督の演出という新しい試み。普段初日の舞台は見ないのだが、今回はしのぶさんが永年の想いを込めた花道の第一歩を、なんとしてでも見たいと思って。その心境は計り知れないが……。3日金沢へ。翌日帰京。4、5日と直門稽古。5日の晩は東京南ロータリークラブのオクトーバーフェストで留学生に呈茶。
 6日昼、鈴木保奈美さん出演の「レイディマクベス」鑑賞。終演後、久しぶりにお目にかかる。東京から京都へと長期の公演。「毎日大変ですね」と申し上げたところ、「お茶会でも一日何回も……同じです」と。なるほどと思いつつ、何席でもいつも同じレベルであらねばと再決意。読売ホールから浅草公会堂に移動、中村鷹之資さんと渡邊愛子さんの翔之會へ。父親の故中村富十郎丈の十三回忌にあたる本年。鷹之資さんのここ数年の充実ぶりは嬉しい。また愛子さんの成長ぶりも素晴らしい。若者の輝きは観る者の心を豊かにするものである。7日はポートランドからの来客。8日東京茶道会。9日は財団の秋季講演会。10、11日直門稽古、12日奈良へ。全国大会前の最後の稽古。13日は帰京して東美アートフェアへ出かけたが、少々疲労気味で大好きな美術品があまり目に入らず。14~16日男鹿支部創立六十周年行事に出張。六十周年の重みと未来への飛躍を願う。17日福岡、18日名古屋、19日直門の稽古。20日はミス・インターナショナル各国代表が宗家に来訪し茶道を体験。
21、22日は奈良薬師寺での全国大会。素晴らしい天気に恵まれ大盛会。国宝の吉祥天女像の特別拝観をはじめ、薬師寺様の多大なまでの協力に感謝感謝。23日犬山での如庵茶会出席。このあたりで移動中の新幹線や各宿泊先での就寝時に、矢沢永吉の『トラベリン・バス』が聞こえてくる(苦笑)。26日ミス・インターナショナル世界大会審査員。27日神戸出張。全国大会での薄茶席担当の大阪真甫会の皆様とお互いの労をねぎらう。28、29日は岡山支部出張。二年前のパンデミックのなかでの全国大会の成功がいまにつながっている。30日茶花稽古。少し声がかすれ気味。翌31日ついに明日から十一月、炉開きの準備。
 という具合で十月は久しぶりの弾丸月間だった。芸術の秋・茶の湯の秋・文化の秋。人と人との対面。忙しかったがこの数年にない喜びと充実感をいただいた。来年も皆さまとともに健康な一年としたいと願う。