暑い盛りに

2022-8-1 UP

 すっかりと夏真っ盛りの日本列島である。

 一部ではフライングともいわれたが、今年は珍しく沖縄、奄美につづいて東京が梅雨入り宣言となった。ところがその途端に、しとしとの雨降りではなくゲリラ雷雨に見舞われ、さらに関東の広範囲で雹〔ひょう〕が降り、その影響による被害が起こっている。その後ようやく全国各地の梅雨入りのニュースを聞いたと思っていたところ、あっという間に6月下旬には気温35度以上の猛暑日が日本全国に襲い掛かっている。襲うという表現は適切ではないかもしれないが、気分はそういうことなのである。天気予報を気にしない私であるが、何十年ぶりとか、史上初めてとかいったお天気キャスターの話を聞くたびに辟易する毎日である。加えてサーモグラフィーの映像などが紹介されて、真っ赤な画面を否が応でも見せられ暑さがより一層増幅される。地球温暖化ここに極まれりといった感がある。世界中でCO2削減を始めいろいろな対策や、目標が掲げられてはいるが、それも各国の政治情勢によってすぐに変わってしまう。つまるところ人間とはそういう生き物であるということが、自然環境への姿勢を見ればよく判る。いま起きている戦争は、その最たるご都合主義の悪例である。

 閑話休題、いまから十年前のある思い出に繋がる話。

 つい最近のことであるが、BSテレビで日本を代表する映画監督の一人、小津安二郎の作品の特集をやっていた。と書いてみたが、この『遠州』の読者でも、いったいどのくらいの人がその名を知っているだろうか。おそらくほとんどの人が「誰?」となるかもしれない。かくいう私も、無類の映画好きであるが、小津の映画は実のところいままで一度も見たことがなかった。しかし「オズ」の名前は「クロサワ」「ミゾグチ」とならび、世界中で評価の高いビッグネームであることは当然知っていたので、とりあえず録画しておいた。「晩春」「麦秋」「お茶漬けの味」「早春」「東京暮色」の五作品である。残念ながら「東京物語」はなかったが、いずれも代表作である。

「晩春」は1949年、つまりいまから73年も前。残り4本もほぼ同時代の作品。知識として「小津調」と呼ばれる独自のスタイルがあると知ってはいたが「晩春」を見た瞬間に、「ああ、こういうものか」といっぺんに虜〔とりこ〕になってしまった。なんともいえない、ゆったりとした演出が、五作品に共通していた。私の知らない世界であった。現代人のなかでは遅くてかったるいと感じる人もいるであろう。しかしそれが、実は国際的には評価されているのである。ここで私の思い出を……。いまから9年ほど前、ハンガリーの国会議事堂で茶会を行った(父は家元の映画にも紹介されている)。点前を終えた私に向かって、来賓の一人である元政府高官で、たいへんな日本通の方が一言「オズのようだ」とおっしゃった。そのときはピンとこなかったがいまになってこれはたいへんな誉め言葉であったと気がついたのであった。