友
2023-2-1 UP
令和五年の新春は、いかがお過ごしのことであろうか。少々まちがいやすいが、元号が変わってから四度目の正月となる。昨年後半から、世の中の動向はずいぶんと活発になってきている。年末からの第八波と呼ばれるコロナの感染拡大に対しても、人々の動きはそれほど鈍らないようである。一昨年までは、感染者数の増減にともない、中止・延期・縮小・制限などといった表現が何かにつけ身の回りに聞こえてきた。その都度、またかといった諦観の念が、いつも私達にあった。多くの予定が突然に取りやめになることも日常茶飯であった。その後の始末に、どれだけの時間と手間がかかったであろうか。が、昨今は、困難な条件下でも、新しい活動に挑戦する姿勢が出てきており、それは一定の評価とともに、希望がもてる傾向である。
茶道におけるリモートやオンライン発信も、新たな表現方法の一つとして定着している。私自身も、このこと自体を理想の姿と考えていないが、ときに取り入れている。私の場合、新しい形態で何かを始めるときには、ただ世間の流れだからというだけでなく、時々の初心という心持ちを大切にしている。
さまざまな表現方法が考えられ試行される。良いものが取り上げられ、その他は淘汰されるか、または改良されていく。この繰り返しのなかから生まれてくるものが後世に残る。遠州公の「旧きとても形いやしきは用いず 新しくても形よろしきは捨つべからず」はまさにこの意味である。古〔いにし〕へより創意工夫の精神を茶道では何よりも大切にしている。ほかにも、稽古照今、温故知新、古教照心など、多くの言葉が私達に示されている。この三年間のいろいろな取り組みのなかで、私自身あらためて感じるのは、やはりリアルが一番ということ。昨今の音楽業界を例えてみると、現代は配信サービスが当たり前になった。しかしアーティストの実力はライブコンサートでのパフォーマンスだと思う。茶の湯の世界でいえば、当然茶会や茶事がこれにあたる。人と人とが茶室空間で一服の茶を介し、心と心の交わりを楽しむ。至福の瞬間である。ほかの伝統芸能に比して、同じ空間、同じ目線でやり取りする、あるときは主客の役割が入れ替わるというのは茶道の優れた特徴である。この原点にもう一度立ち戻って今年は活動をしていきたいと思う。
本年の歌会始のお題は「友」である。茶道には茶友という言葉が存在する。「書捨の文」の冒頭に「夫れ茶の湯の道とても外にはなく 君父に忠孝を尽し 家々の業を懈怠せず 殊には朋友の交を失う事なかれ」と流祖は伝えている。今年は茶の湯を通して、心の友との交わりをより一層深めていく年でありたいと願っている。