シンガポールの三十五年

2024-10-1 UP

 猛暑の夏にそろそろ一区切りつくのではないかと思っていた最中、今度は日本列島を台風が度々襲来している。それも皆、史上最大規模とか、今まで経験したことのない……といった表現が、テレビや新聞を騒がしている。ニュースによっては「命を守る香道をしてください!!」などと、相当ショッキングな表現が、アナウンサーの口から何度となく発せられる。

 それを聞く私たちは、結構な衝撃を受けている。今すぐどうすればよいか、大いに迷ったり悩んだり、苦しんだりする。気候変動に、もう抗うことは不可能にも思える昨今である。

 さて8月21日に、東京国際空港(羽田空港)からシンガポールへと発った。遠州流茶道がシンガポール国立大学(NUS)に、一九八九年に茶道部を開講して35周年となる記念の年である本年、昨年来計画されていた種々のイベントのための訪星である。行事が多いため、妻の貴美子や娘の宗翔をはじめ、通常の人数よりも多い全国門人のご協力をいただいての旅であった。

 到着した翌日は、早速日本大使公邸において、駐シンガポール特命全権大使、石川浩司閣下主催による茶会が公邸内茶室で催され、その亭主役を任ぜられた。この茶室は1988年の公邸竣工披露の日本文化祭で初使用されたもので、そのときの亭主役は先代の紅心宗慶宗匠であった。以来、歴代大使のご要請により、何度となく茶会を行わせていただいている。茶会が終わると、大使ご夫妻主催の、お客様を囲んでの食事会となる。大使厳選のメニューのご馳走である。大使公邸をあとにして、夕刻には日本の代表的な家具製造メーカー、オカムラのショールームにて、久留米支部橋本宗行支部長が日本から運んだ、昇降式デスク「流麗」による茶会があり、一服頂戴した。

 23日は、この旅の一番の眼目であるところの、NUS茶道部創立35周年記念セレモニーと記念茶会である。セレモニーには、日本大使、大学会長からの祝辞をいただき、日本研究学科長と私が感謝のご挨拶を述べた。その後カルチャールーム(茶室)で、私の点法でお茶を差し上げた。お運びはもちろんNUSの学生と卒業生たちである。夕刻は祝賀懇親会が行われた。翌24日はJCC(ジャパン・クリエイティブ・センター)の創立15周年の記念イベントとして、午前中は私の講演と、天籟を使用しての宗翔の点法の茶会の後に質疑応答が行われた。午後はNUS茶道部員が点法をし、加えて現役学生が正確にして詳細なる点法解説をする茶会が行われ、大好評であった。その夜は、私の母校・学習院の卒業生の集まりであるシンガポール桜友会の方たちとの交流晩餐会で旧交をあたためた。

 そして翌朝シンガポールを旅立った。スケジュールがぎっしりではあったが、一つひとつのイベントに35年の重みとありがたさを感じた、今回の出張であった。