東海道旅日記「下りの記」 10月10日 訳文

2021-7-2 UP

十日 暁の頃に出発し、桑名の里に着く。
城主(松平定綱)の出迎えを受けて、
しばらく休息し、語らう。
船着場から船頭の声がして
「潮が満ちた!追い風だ!」
というのを聞いて、申の上刻(17時前頃)、
城主に大急ぎで暇乞いをして船に乗る。
順風に帆を引き、船のゆく事
飛ぶ鳥のごときはやさである。
ある家の若者が詠んだ歌

ふねにのる 人の齢も追い風に
 いそげば申の おはりにぞつく

熱田の宿の主が出迎えて物語などし
ながら共に宿に向かい到着。
徳川義直公は大樹のごとき御慈非篤く、
世間の評判は言うまでもない。
御母堂は宗応院と号されていらっしゃる。
去る1614年の9月10日に亡くなられた。
ちょうど一周忌今日、法要を営まれるために
武蔵よりこの国にお帰りになって
物忌のお籠りになっていらっしゃると宿の主。
このことをお伝えして帰りますとのこと。

つねならぬ 世のならひこそ かなしけれ
 玉のうてなの 住いなれども

このように思いながら
宿に到着すると、時は丑の刻、真夜中になっていた。