東海道旅日記「下りの記」  訳文 10月13日

2021-11-5 UP

十三日

浜松の里を過ぎると ほのぼのと日が明けてきた。
ここはどこかと供の者に問うと、池田の渡しです
という。さる者が
 
  かぜさむしいそぎいけだの舟わたし

とおもしろいことを言っている。
それを聞いて、またある人が

  もちあたためて酒うれるやと

続けるよりも早く、下人たちがもちを食い酒を
飲んでいる姿は面白い。 

舟を越えて、見付の里を過ぎる。
行き先は遠江掛川というところ。
ここの城主が宿を出でてお待ちくださっていた。
そこに立ち寄ってしばらくとどまり、
お暇して日坂の宿に一泊する。
ここはさよの中山のふもとである。
山から吹きおろす風で、時雨の雲も吹きはらわれる。
明るく冴えわたる月に、誘われるようにこの里をでる。