「東海道旅日記」10月3日 訳文 その一
2020-8-28 UP
三日 晴天。風は閑である。
この坂の下には四方に山を戴き、また渓は深く水の流れは
見慣れない景色である。
山の紅葉はさながら唐紅をかざしたような様子に見とれ、
足取りも自然と遅くなる。
いろいろの紅葉をかざす坂の下を
振捨かたき鈴鹿山哉
少しずつ坂を上り、山路を越えていくと、土山を過ぎ、
水口の里にさしかかる。
過ぎし三月の初めに、ここを通りすぎたことを思いだしながら、
左右に広がる田面を見て、
水口を縄代に見し あふみ路を
かへれば霜の おくて田(奥手田)となる
そこから和泉河を渡って、石部の里を過ぎたところで、
京より関迎えとして人々が出迎えてくれた。語りながら進んでいく。
心ありて時雨にくもりかがみ山
やつれぬる身の影を見せじ
などと言っていると、又雲が晴れ、曇りもない。
旅衣やぶるゝ影を見えしとて
かさきて腰をかがみ山かな
次週につづく