9月29日 訳文
2020-3-6 UP
29日 晴天 朝早く出発する。 風は新居の里ではないが、いまだ荒く吹き荒れる中里をでて、 夜の明けきらぬうちに白須賀の宿を通る。
よをこむる 道の便の 竹の杖
行衛をとふにしらすかの里
ほのぼのと夜が明けていく。塩見坂をのぼり、谷を行くと細い河がある。 聞けばここから三河(みかわ)の国だという。 そこを行くと里があり、二河という。
河は三河 里は二河 合すれば
いつかはかへり つかむ故郷
ここから駕籠に乗りひと眠り、目が覚めて問えば すでに吉田の里に到着していた。 夢みながら はるばると長き道のりをきたことよと思って
ゆめとても よしや吉田の さとならむ
覚てうつつも 憂き旅の道
と詠んでみる。 ここの城主は私が特に親しくしている方なので、 立ち寄りてお会いしたいと遣いをする。 あいにく京都へ出向いていて留守とのこと。残念。 そこを過ぎて豊川の橋を渡りこざか井というところに到着した。 関西の堺の津を知る人が、名前は同じだけれどもここはその名の通り、小堺であるよと戯れると、里の人がこれを聞いて、この里の端に小坂があることから小坂井なのだという。 そこを行き過ぎて、今度は五位の里に至る。 東海道中に数多くの里の名があるが、この里ほど位の高い里はないなあと言うと、またある人が五位鷺という鳥の名もありますななどと供のものが言っているのを聞いたりなどしているうちにあか坂の里に到着。 その次は長沢という里。(その里の名をいれて)
雲晴て 日はあか坂の 里なれど
旅の行衛の 道のながさは
なお進んでいくと二むら山という場所に着いた。この山の中に法蔵寺という寺があり、立ち寄って拝見する。
三かはなる ふたむら山を はこにして
中へいれたる ほうぞうじ哉
此の山をみてみると、青葉まじりの紅葉が風に吹きあらされる様子は、 まるで錦の布を切り取ったかのような美しさである。
ふたむらの 山の秋風はげしさに
紅葉のにしき 着てもこそ見れ
ここから藤川というところに到着して一泊。