茶の湯に見られる文様
2017-7-7 UP
ご機嫌よろしゅうございます。
毎年5月15日に行われる葵祭は京都の春の風物詩です。
花で飾られた牛車や、輿に乗った斎王代を中心にした行列が、
御所を出て下鴨神社から上賀茂神社を巡幸する雅な様子は
平安の昔を今にみるかのようです。
「源氏物語」の「葵」の帖では、源氏の正妻である葵の上と
六条御息所が、見物の場所をめぐっての車争いが引き起こされます。
車とは貴族が乗る牛車で「御所車」と呼ばれ、後世「源氏物語」の
世界を象徴するものとして、文様として多く描かれました。
草花や流水と組み合わせた華やかな文様は振袖や打掛にも
描かれます。しかしそういった華やかさだけなく、
車の廻るがごとく、人の世は巡り巡るもの・儚いものとした、
車輪を人生になぞらえた無常観を表すものとしての文様、
また仏の道である法輪を象徴するものとしてもとらえられます。
御所車の車輪は木でできていているため、乾燥やひびを防ぐため、
川の流れに浸し置かれました。
そうした当時の光景を文様化した「片輪車文様」は、
水の流れに任せて回転する車と流転する人生とが重ね合わされ
無情感や日本的世界観が構築されていきました。
「片輪車蒔絵螺鈿手箱」は装飾経を収める経箱として
用いられたと言われていますが、その文様に託された隠喩が
関係するのでしょうか。
この図柄を原羊遊斎に模させた松平不昧共箱「蒔絵錫縁四方香合」
があります。また志野や織部にも片輪車を描いたものは多く、
「織部片輪車星文四方鉢」や、赤地に緑釉をかけた珍しい織部に
「山路」と銘をもつ茶碗がありこれにも水辺に上部のみ
姿を見せる片輪車が描かれています。