茶の湯日記3月

不傳庵 茶の湯日記 

雪の日の点初め
遠州茶道宗家十三世家元 小堀 宗実 

 新年の初の一大行事である点初めが、本年も盛会に終わり、やれやれ一段落とホッとする間もなく、あっという間に二月が過ぎ、三月の声を聞く頃となってしまっている。その間、明治神宮においての、華甲記念行事の最初でもある、献茶式や恒例の東京茶道会招待茶会掛釜や御自影天神供養茶会等を勤めさせて頂いた。

 前述の点初めは、現在では、東京と福岡の二ヶ所で開催している。東京は、もちろん遠州茶道宗家の研修道場で行なわれるのであるが、私が小さい時は、四日間程度であった。段々と人気があがり、今は六日間となっている。

 そして、福岡における点初めは、今から十三年前に、西日本の遠州流茶道の拠点としての、遠州流茶道文化会館の開館以来、行なわれるようになっている。従って今年で十二回目の点初めとなった。

 その福岡の今年の点初めは、今までの中でも、大変印象深いものになった。というのも、両日とも雪の中での開催であったからである。

 東京を旅立つ数日前から、西日本地域において、史上最大の寒波が訪れるとの天気予報があり、私も、いささか今年は覚悟しなければ、と思っていたのは事実である。しかし、私自身、世間一般の表現で言えば、「晴れ男」の部類に入る人間であり、実際に今までの多くの行事は、たとえ天気予報が雨であっても、それを覆して晴天になることが多いので、何とかなるのでは、との淡い期待をもって、福岡を訪れたのであった、前日の準備日は、少々の寒さを感じてはいたが、雪の気配は感じられなかった。そして迎えた初日、朝は雪はなく、やはり大丈夫か等と思っていた。しかし、午後を過ぎる頃になると雪が散らつき始めていた。ところが、この段階で私は、参会のお客様をお相手に濃茶のおもてなしに専心していた為、外の様子は全く知らなかった。終席を終わり、窓の外を見ると、かなりの降雪。これはちょっとまずいかなと、やや不安な気持の方が増してきていた。

 二日目の朝、ホテルでの目覚めと共に窓の外は、真白であった。タクシーの予約もままならない状況で何とか会館に着く。それでも、さしたる混乱もなく、次々とお客様は来会された。さすが、お茶のお客様。その気持に答えるべく、私達一同も、熱い心でお迎えをさせて頂いた。

 お客様の中で、薬師寺の加藤朝胤師のお言葉が大変印象に残った。それは「今日は、大変思い出深い一日です。会場に辿り着くまで、自分の目の前には、何一つの跡もない一面真白な雪でした。そして振り返ると、自分の足跡だけです。これ程の美しい日はありません」と。

 私はそれを聞いて瞬時に、今年の茶席の床に掛けた江雲禅師の「一の字」の掛物を思った。一の大字の右下に小さな小書き。それ以外は余白。まさしく朝胤和尚様の言われる景色そのものなのであった。